SSを書いてみました。俺なりの矛盾に対する回答です。良ければ観想ください。
なお、考えるきっかけとなったのはNo2155の鷹さんの発言と、No2159のマサキさんの発言、NO2171のまさるさんのリンク先の仮説などがもとになっています。貴重な意見、ありがとうございました。m(_ _)m
「もうすぐネクサスだな・・・どれ、ぼっちゃんをおこしに行ってきます」
「ああ。」
キャプテンガルーダは、コーヒーを飲みながら答えた。今回の航海はとことん平和だった。ヒーローの法則として、厄介ごとに引き付けられるという宿命を持ったガルーダにしてみれば、滅多にない事だ。いや、あの情報が正しければ、このネクサスでマッドサイエンティストと戦う事になるかもしれない。ということは、まだ何事もなく終わったとは言えないだろう。早い所どこかに隠棲して、平和な暮らしを手に入れたい物だと思う。
そんな事を思っていた時、ガルーダは背筋にゾワリとした悪寒を感じた。とっさにヒロニウムを発動し、サラマンドラに力を流し込もうとして、一瞬ためらった。力を使えば反動が来る。使っていい物か? この危機感は、ヒロニウムを使わなくても切り抜けられる程度の事態だとしたら!?
この一瞬のためらいが、致命傷となった。
ズッガーーーンン!!!
凄まじい衝撃が、サラマンドラを揺るがした。一瞬の後にコントロールパネルのコンディショナルシグナルが全てレッド点滅を始め、警報が鳴り響いた。
「なんだ!? なにがおこった!? チェックしろ!」
「は、はい!」
「キャプテン! 理由は不明ですが船体を何かが貫いていったようです! 記録を信じれば・・・これは、空間破砕砲のような物ではないかと!」
「くそ、異星人のテクノロジーの兵器か!? 第二撃は!?」
「それらしい反応はありません! しかし、船の状態がこんなんでは、シールドの展開も不可能です!」
「くそ!」
ガルーダは、とにかく意志の力を船に流し込んで、力でサラマンドラを動かす事に集中する。そうしていなければ、こういった分析すらままならないほどの大ダメージを受けてしまっているのだ。
「キャプテン大変です! 居住ブロックからの反応が消えたので調べていたんですが・・・こりゃあ、丸ごと消失してますぜ!」
「なんだと!? あそこにはジークとホークがいたはずだ!」
「・・・キャプテン・・・この状態では、二人とも助かっているはずは有りません。」
「そんな・・・いや! 俺は認めん! まだ、可能性は残っている!」
ガルーダは、艦橋を飛び出すと、居住ブロックに向かった。途中の隔壁がしまっている。ここから先は真空である事を示す表示が点灯している。かまうものか。ガルーダは、即座に隔壁を開いた。簡易宇宙服を発動して真空対策をする時間すら今は惜しい。
「な・・・」
ガルーダは絶句した。
居住区が、卵型に切り取られ、ぽっかりと大きな空間ができている。卵の先端部分は船体後部に向いている。減速を行っている最中だったから、卵の先端はネクサスに向いている事になるだろうか?
切断面は、まるで鏡のように滑らかだ。まるで完全剛体の表面を見るかのように。
「ホーク! ホーク! 返事をしろ! いないのか!?」
ガルーダは、声を限りと叫んだ。ヒロニウムが輝いている今、真空をも越えてガルーダの声は届く。真空をも越えて、ジークやホークの助けを呼ぶ声を聞ける。そのはずだ。だが、声は聞こえない。思念のみの声ですら聞く自信が有るのに・・・
「ならば!」
ガルーダは方法を変えた。壁に手を当てて目をつむり、サラマンドラと自分を一体化する。ほとんどのセンサーが衝撃でブラックアウトしていたが、この状態なら機能するはずだ。数万キロ彼方の小石ですら感知できる。消失した居住区はおろか、ジークとホークも見つかるはずだ。船内にいるなら船体を通じて意志の力を通わせ、二人を助ける事ができる。はるか彼方の宇宙にいても。素早く助けにいけば間に合うはずだ。
だが・・・二人の反応はなかった。居住区ごと消失してしまったかのように、かすかな気配すらない。『こりゃあ、丸ごと消失してますぜ!』さっき聞いた報告が、脳裏をこだまする。
わかっていたのだ。ホークはジークを艦橋に連れてくるために出ていったのだ。もし、居住区消失の被害を免れていたとしたら、二つの可能性しかないのだという事を。ホークが居住ブロックに入る前だったら、消失範囲に入っていなかったはずだから、ジークはともかくホークは助かっていたはずだ。
ジークを起こし、艦橋に帰ってこようとしている時だったら、二人とも消失範囲から出ていたのだから助かっていたはずだ。いずれにせよ、自分が居住ブロックに向かう途中で出会っていたはずなのだ。二人は、あの時、居住ブロックにいたのだ。そして、消失した。そうとしか考えられない。
ガルーダは、凄まじい虚脱感を感じた。妻に次いで息子まで。あんまりだ。これがヒーローの宿命とは言え、あんまりだ。意志が萎えるのと同時に、船体に流し込んでいたオーラが薄れていく。
「うおぉぉぉぉぉおおおおお!!」
ガルーダは号泣した。
竜骨ごと船体の一部が消失したサラマンドラは、機能のほとんどを失い、漂い始める。完全剛体の竜骨が破損した今、サラマンドラを再建する事は不可能だろう。だが、そんなことはガルーダの頭にない。ただ、凄まじい悲しみと脱力感が彼を包んでいた。サムが様子を見に来てくれなければ、そのまま真空にさらされて、死んでいただろう。
彼は知らなかった。この惨事を招いたのが、他ならぬ彼の息子だという事を。過去にタイムトラベルした未来のジークが、「過去の自分」という存在を手がかりに今この時間へと転移したのだということを。その衝撃でこの惨劇が起こったのだという事を。
過去に飛び込んだ衝撃のほとんどをサラマンドラの居住区で相殺し、ジークは、近くを飛んでいたシャトルに実体化した。
未来のジークが、スペースデブリとの接触という事故を起こしたシャトルを救うのは、この数分後の事である。
「いてて・・・くう・・・なんだったんだ、今のは?」
ホークは、ようやっと周囲が落ち着いたので、周りを見回した。 確かあの時、ジーク坊ちゃんの周辺に白い光の渦が湧き起こり、ワープの時のような感覚が襲って・・・一瞬なにもわからなくなった。一体なんだったのだろうという疑問を振り払い、状況の確認を始める。
幸い、ジークは無事だった。特殊な対衝撃ベッドに寝ていたおかげで、怪我はない。泣き止むまでほうっておいてもいいだろう。
ホークは、緊急用のジェネレーターを起動したり隔壁閉鎖を行った。さらに、空気漏れのやライフラインの最低限の修復、SOSの発信と、めまぐるしく働く。さいわい、1時間もかからずに救助の船が来てくれた。ネクサスは新興の惑星だが、すぐそばでの事故だ。こんなものだろう。
「しっかし、なんだったんだ? あれは?」
ホークはジークと共に救助にきた船に乗り移りながらつぶやいた。
「ありゃあ、ただの事故とは思えん。それよりは、なにかヒーローの力に関係していたような・・・」
「は? ヒーロー?」
救助に来た軍人が、訳が分からないといった顔で聞く。襟につけている記章は、見た事のないものだ。
「ああ。なんか、ジーク坊ちゃんが、ヒーローのオーラを発したように見えたんだ」
「は???」
「いやだから・・・」
話の通じない軍人に首をひねるホーク。
ふと思い出す。この記章は、明らかにネクサスの物とは違う。どこの軍に所属しているのだろう? 他国の軍人がネクサスにいる理由は? もしかしたら、ネクサスに敵対する国家の宇宙戦艦が、隠密行動中に拾われたのだろうか? そういえば、イントネーションが少し違うような気もする。注意した方がいいだろうか。話がいまいち通じないのも、下手に情報を漏らさないためかもしれない。
彼は知らなかった。それが、ごく辺り前の反応である事など。
彼は知らなかった。目の前の軍人が、ヒーローという概念がまだ存在しない時代の人間であることなど。
ジークとホークは、180年もの昔にタイムスリップしていたのだ。位置も、数十光年は別の場所にいる。
彼ら二人が、銀河中心核へと到達し、ヒロニウムを持ち帰るのは25年後。108人のヒーロ達と共に銀河大戦を終決させるのは、さらに5年後の事である。
http://www.interq.or.jp/pluto/signal/index.html